No.6 『新しい医療機器を普及させるためには?』〜弊社技術顧問の考察〜
私(技術顧問・豊島)は、内視鏡やその他の医療機器の事業化に約30年携わってきました。後半は内視鏡分野とは違った生体材料や再生医療、新規医療機器など30以上のテーマの新事業立ち上げにチャレンジしました。市場シェアが世界的にも非常に高い内視鏡事業とは異なるポジションの医療機器事業の立ち上げも数多くの経験もすることができました。また、会社を卒業後、医療機器に参入を目論む大企業や中小企業、大学発のベンチャー、等のご支援もさせていただきました。そういった経験の中で、「いいものを造っても売れない」というのを皮膚感覚で感じてきました。
弊社は、主にイスラエルで開発された医療機器を日本市場に導入するという仕事の中で、80製品を超える機器の日本での市場性検討をしてきています。
そこでも感じたのが、冒頭の「いいものを造っても売れない」でした。
(正確にいうと、「いいものでなければ当然売れない、ただ、いいものだからといって売れるとは限らない」という事です。)
この肌感覚「いいものを造っても売れない」を、①医療機器メーカー視点と②海外で開発された優れた医療機器を日本市場に導入するという2つの視点で見たときの共通項をまとめてみました。
ここでいう「いいもの」とは、医療機器メーカーが「いいもの」視点で造ったハード/ソフト製品のことで、必ずしも市場性等の分析に基づく、その市場にあった導入・販売戦略が構築できていない製品のことを指します。
- Drの言う通りに造ったのだからいいもののはずだという思い込み
- その先生がいる環境(例えば、国や地域、所属する病院や地位)と、狙う市場セグメント(都市部の大病院と地域の基幹病院や開業医)の環境が同じとは限らない。また、同じ科や疾患がターゲットでもその市場セグメントの経済性や症例数などの環境が異なれば ”いいもの” から外れた評価になる。
- 開発に携わるDrはトレーニングシステムや修理体制などはあってあたりまえ(考えない)、既存ビジネスで忙しい営業の誰がどう売るか?も考えないことが多く、市場性などの考察ができるDr は少ない。また、製品の使い方などのトレーニングや修理の体制が重要なことも多い医療機器ビジネスでは「2台目はサービスから」といも言われている。いいもの=優れた製品 というだけでその機器が高い評価には必ずしもならない。
- 更に新コンセプトの医療機器であれば、きちんとした医学的有効性を示すデータ;Evidenceがないと受け入れに時間と労力がかかる。現在はEMB:Evidence Based Medicineが根付いているので尚更である。
- 国が違えば、そのデバイスの経済性だけでなくDrの要望自体も異なる。
- いい製品だからといって医療機器代理店が即売る気になるとは限らない。
- 手離れが悪い=売るのに時間と手間がかかる
①医療施設/先生が買う気になる医学的有用性が示せない。示しづらい。
②機器使用の習得に時間がかかる。
③メンテや維持の手間やコストが大変。 - 代理店のリスクと投資に見合う充分な利益が見込めることは重要であり、しっかりした市場性:売れるかどうか?の事前分析が重要である。具体的には
①同じ科(消化器)の疾患(ポリープ)でも部位(上部・下部)によってニーズが異なることもある。施設における社会的役割や規模でも異なる。
②購入した病院の採算性の見える化は必須、仁術論だけでは施設は購入しない。販売組織が継続的に売る気を持つか?:利益率、売りやすい(説明無しで売れれば最高;更新機器や消耗品などは流すのに手間がかからない)、手離れの良し悪しも大きな鍵。肉屋(脳外科に強い店)にバナナ(泌尿器科の機器)は売れない
- 手離れが悪い=売るのに時間と手間がかかる
上記以外に、メーカーもしくは輸入・販売代理店の視点では、
1. 法規制(RA)いわゆる薬機承認の壁が高すぎることもある。品質体制の構築(QA)にも資
源と時間がかかる。 その製品の医学的有用性=医学的有効性+経済性、が充分高くないと
投資(RA, QA)コストや時間にみあうビジネスとは判断され難い。
2. 医療機器は新医療機器事業であれば、なおさら、事業収益をあげるのに時間がかかる。想定
外は必ず発生するので事業計画は後ろにずれ込むことが多く、多くの場合後の方になればな
るほど苦しくなる計画で事業を始めるので問題が顕著化しやすい。
といった事がいえます。
まとめますと、
商品=製品+手技開発といわれるようになってきましたが、この商品を売れる商品にするには 「商品+販売体制構築」 が不可欠と考えます。
その販売体制構築は、メーカーや輸入業者と販売網や医師との連携をどう築き上げるかも重要でありその部分に資源の投入が必要です。無論、法規制のクリアも必須ですし、戦略的考え方がとても重要です。
また、新コンセプトの医療機器の場合は、メーカーが得意なPDCAサイクルだけでは時間とコストがかかるだけでなくタイミングを逸するリスクが高くOODAサイクルの取り込みも必須と考えます。
最後に、医療機器ビジネスに携わることの素晴らしさは、”患者様の苦しみが少しでも改善され、ご本人だけでなく、ご家族様の喜びを、感じることができたとき、心から自分自身も癒やされ、本当に微力ながら貢献できることに感謝することができるところにもある” と、このところその思いを強くしております。
お読みいただき、ありがとうございました。